ククシュカ鉄道 第六夜


こちらの文章は2016年にnote上で連載したエッセイグルジア酔いどれ夜話の再録です。現在の私の考えと異なることや勘違いもありますが面倒臭いので記録の保存という観点から内容を変えずに再録しています。

第六夜
2016/06/28

第2、4火曜日更新
<著者:Siontak>

「グルジアはワインが有名なのよね?ヨーロッパの国なんでしょ?」「グルジアってのは一体どんな国なんだ、まさかISISに入ろうとして住みついてるんじゃないだろうな。」

それぞれとんちんかんなことを言いながら、母と父が息子を訪ねてグルジアまでやってきた。

独身のまま海外をふらふらしているといい歳になっても子供のように思ってるのかもしれないが、久しぶりに親孝行の機会。トビリシに住み始めてから久しぶりの小旅行に両親を連れてツァグウェリ(წაღვერი)に行ってきた。

ツァグウェリはトビリシから西へ170km、Borjomiウオーターの里ボルジョミ(ბორჯომი)とスキーリゾートで有名なバクリアーニ(ბაკურიანი)の間。

ツァグウェリはたぶん地球の歩き方にもロンリープラネットにも載ってないだろう。外国からの旅行者の関心を惹くような観光資源もない山間の小さな村だが、帝政ロシアの時代からこの辺り一帯は夏の避暑地として有名だった。

僕の親友トトは代々ここの地にサマーハウス(別荘)を相続しており、彼女のアンカと保養に来ていた。保養もなにもいつも酒を飲むばかりで働いてるところを一向に見たことがないのだけど、日がな一日中冷房のない部屋にいては暑くてやりきれないのもわかる。トビリシは6月に入ってから30度を越す日が続いていてもう夏に入ってるのだ。

トビリシに住むグルジア人はサマーハウスを持っている人がわりと普通にいる。8月の酷暑期になると仕事がある人もない人もサマーハウスや田舎に引っ込むのが慣習なんだそうだ。

トビリシからマルトルーシュカ(マイクロバス)に乗ると2時間弱で着いたツァグウェリ。なにもないけどだからこそきれいなながめと涼しい風がきもちいい。

↑ツァグウェリにも牛がたくさんいた。

グルジアでは田舎に来ると牛が放し飼いにされてるのでそこかしかこで牛とすれ違う。土地の人の家には大抵小さな牛小屋があって毎朝乳を搾った後外に出される。家を追い出された牛は近所の牛と三々五々道端の草や茂みを食みながらどこかを目指していく。1日かけていい草の生えてるポイントを何ヶ所か巡回して夕方家に帰ってくるのが牛たちの日課。田舎のグルジア人は搾った牛乳からチーズやバター、ヨーグルト、なんでも自分たちでつくって食べる。野菜だって育ててるし、ニワトリもいてパンも焼く。ワインだってつくる

↑以前他の村でご馳走になった自家製のチーズとマツォーニ(ヨーグルト)、アルジャン(サワークリーム)。赤いのはアジカという唐辛子系調味料。

旅行者の少ない村を歩いてるとお茶に呼ばれることがある。お茶だけでなくパンやチーズ、ワインまで出てくる。おいしい、おいしいって出されたものをいただいていると、「うちの牛を買わないか?毎朝10Lミルク出すいい牛だ。今日は泊っていったらどうだ?そうだ、土地と家を買うといい。安いぞ。結婚してるのか?紹介するぞ。」と移住計画を立てはじめられたりすることもあるので独身旅行者は注意が必要。

ツァグウェリに着いたその日は既定どおり夜遅くまでワインを飲み続けた。

翌朝、二日酔いになってないと父が驚いていた。グルジアワインを飲み慣れてしまっていた僕は忘れていたが普通ワインを1Lも飲んだら次の日は二日酔いするらしい。グルジアのワインは他の酒とちゃんぽんで飲まない限り、2Lくらい飲んでも次の日もみんな平気な顔してる。

↑グルジアのワイン。ワインはგვინო(gvino)と書いて無理やりカタカナ表記すればウィーノになる。

一般に白がよく飲まれるけど白といってもオレンジ色に近いのが特徴。

これらのワインは自家製だったり、量り売りを買ってきたもの。多くは次の年の収穫、醸造までに飲みつくしてしまうので酸化防止に添加物を加えることもない。

それが理由なのかはわからないがグルジアのワインはジュースのようにすいすい飲める上、二日酔いしにくいのだ。

↑たまに遊びに行くトビリシのワイン立ち飲み屋。上に吊られてるペットボトルにつめてもらって5L、10Lとグルジア人は買っていく。

みんな元気だったのでその日は隣町ボルジョミまでククシュカというレール幅の狭い山間鉄道で山を下りて行った。Wikipediaにククシュカ鉄道について記事があるのはグルジア語、ロシア語、ウクライナ語の他はチェコ語と英語、日本語だけ。日本人がいかに鉄分の濃い民族であるかわかる。下手なことは書けないな・・・いや、逆にいたって鉄分の薄い人でも楽しめる、すてきな乗車体験だった。

↑ツァグウェリ駅プラットフォームはこんなで一見廃線のよう。建てられたのは19世紀初めとかなり古い。トイレはすでに廃墟状態。

↑ちゃんと定刻通りに電車がやってきた。

鉄道ファンでなくてもレトロでかわいいと思う。客車は2両編成で一等と二等に分かれてる。二等は最後尾から外が見渡せるというのでそちらへ乗り込む。レールの幅が普通よりやや狭い。

乗車中連結部に出るなんて日本では安全上難しいのだろうけどグルジアでは自己責任が当たり前なのでうるさいことは言われない。ボルジョミまで小一時間。運賃は1ラリ(50円)。

↑連結部に出たトトとアンカと妹のナタ。

この小旅行には僕の両親の他にアンカの両親と妹のナタも一緒に来ていた。父が持ってきた日本酒をみんなで飲みながら緑や谷間の風景を楽しむ、ちょっと変わった鉄道旅行だった。

山から下りて着いたのはボルジョミ。

ボルジョミはこのククシュカ鉄道の起点となる街でグルジア最大の国立公園やグルジアで最も有名な微発泡のミネラルウォーター、BORJOMIの産地でもある観光地。

国立公園はすごく大きいので数泊かけての縦走トレッキングを楽しむこともできるし、入り口のあたりはテーマパークになってるので脚に自信がなくてもミネラルウォーターをくんで飲んでみたりケーブルカーに乗ったりして十分楽しめる。

公園内で売られていた松ぼっくりジャムと松脂ガム。どっちも意外とイケる。ボルジョミは木苺類もよくとれるので夏の終わりには木苺ソースをつかったボルジョミの肉料理もおいしい。

夏のボルジョミは涼しくゆっくり静養するのにちょうどよい。そしてボルジョミまで来たのならククシュカ鉄道でツァグウェリへの日帰り旅行にもぜひトライしてもらいたい。グルジアの夏は9月のなかばまで。

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グルジア/ジョージアで観光ガイドをしています。お問い合わせはこちらから

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