Georgian Graffiti 第八夜

こちらの文章は2016年にnote上で連載したエッセイグルジア酔いどれ夜話の再録です。現在の私の考えと異なることや勘違いもありますが面倒臭いので記録の保存という観点から内容を変えずに再録しています。

第八夜
2016/07/26

2015年4月に呼称をグルジアからジョージアへと変更した、南コーカサスの国。日本ではあまり馴染みのないこのジョージアへ、シルクロード旅行中にたどりついたSiontakさんのコラムです。ジョージアとはいったいどんな国で、どんな生活をしているのか!?

第2、4火曜日更新
<著者:Siontak>

僕は旅行で外国の都市に来るとグラフィティに目がいってしまい、グラフィティのある方へどんどん足が進む。

街の大通りから裏路地へ、中心部から周縁部へと。

住宅地を歩いてもきれいで安全そうな山の手エリアは、なにかとりすました雰囲気を感じてしまう。いくらか物騒で汚くても喧騒と落書きに囲まれた下町の方がその国、その土地の素のキャラクターに触れられそうな気がするからだ。

その点ではグルジアはそこらじゅうにグラフィティを見かける国のようだ。「街の美観を壊す」や「公共物損壊」だなどとあまりうるさいことは言わないお国柄なのかもしれないし、ソ連崩壊後、荒廃した90年代を送ってきたグルジアでは無秩序の中に共に息づいてきた文化として抵抗が少ないのかもしれない。

グルジアに住みついてそろそろ一年がたつ。これまで撮りためてきたグルジアグラフィティを紹介してみたい。

↑どこの国でもよくみかけるドット絵のマリオ、

↑でもこれくらいの規模で描かれてるとなかなか見ごたえがある。子供がよろこびそう。いや、最近の子供はこのマリオを知らないのかな。

↑ステンシルグラフィティも結構見かける。

ベルギーのタンタンにロシアのチェブラーシカ。キャラクターものもなかなか国際的だ。

トビリシは犬の糞がひどく多い。飼い主のマナー向上をうながすグラフィティを歩道にみかけた。日本では看板を設置するのが一般的だけれどもこれはこれでいいアイディアだと思う。

タイルを人ん家に勝手に貼り付けたり、崩れたモルタル壁を利用して立体的な犬のこて絵にしたもの。これらをグラフィティと呼んでいいのかわからないけど製作者のモチベーションの源泉は同じだろう。目に入って不快になる類のものではないし、事実一向に除去される様子もない。こういうグラフィティを見つけて写真に撮って集めるのが楽しい。

黒海沿岸のリゾート都市バトゥミは市政府がバックアップしてるらしく、大型のグラフィティアートをたくさん見ることができた。

このようにアート作品然としてでんっと構えられてしまうと街並みに溶け込んだ自然の風景とは言えなくなってしまい、僕としてはなにか物足りない気もする。それでも一個一個見て回ってしまうのだけれど。

ところ変わって今度はアゼルバイジャンの国境にほど近いウダプノ村で撮った一枚。半径20km四方に集落がまるでないような荒野の真ん中のオアシス村。その村の廃屋に壁一面を使ったグラフィティがあった。不思議な光景。

これまで見たグラフィティがどちらかといえば茶目っけやかわいげのあるものだが下に貼ったのは政治的メッセージが込められたグラフィティ群。

↑グラフィティとは元来殺伐としたもので反抗や不服従を表現するものだった。

はじめにも書いたようにグルジアは1991年の独立以来、内戦やロシアとの戦争など混沌とした状況が続いた。現在30過ぎになる友人トトによればその頃のトビリシは電気もガスも止まりがち、ご近所同士が食材を持ち寄っては家具を燃やしたたき火で調理してわけあったという。

街には銃を持ったギャングがのさばり、テレビやラジオでのニュースも見れないため情勢の先行きもつかめない。当然ネットもない。当時若者の不満や怒りがグラフィティという表現方法につながったと考えるのは飛躍しすぎだろうか。

とにかくグルジアの若者たちが日本の暴走族やチーマーたちよりもよっぽど厳しい環境に生きていたのは確か。そしてグルジアには政治的なグラフィティがとても多い。

↑スターリンとヒットラーが便器に座って向かい合っている図。

世界地図の上の単語ფაღარათი(パガラティ)の意味を調べてみると「下痢便」だった。スターリンとヒットラーは世界三大独裁者の2人だがスターリンはグルジア出身のグルジア人である。地下道の壁にみつけたこのグラフィティには靴で踏みつけられた跡がわかる。

左のグラフィティはグルジアの伝統衣装チョハをまとって高く跳ね上がる踊り手。写真中央の実物と比べれば赤黒二色の限られたステンシルがグルジアの伝統舞踏の特徴をうまく捉えているなとうなづけるだろう。自分も最初感心してながめていたのだけど、よく見てみると両手になにかを持っている。

鎌と槌、ソビエト共産党のシンボル(写真右)だ。とたんにグラフィティのメッセージが突き刺さってくる。鎌と槌を持たされ無理やり共産化させられ、顔を隠すグルジア伝統文化の継承者。

2014年のクタイシではクリミア危機で揺れるウクライナを応援するグラフィティを見た。

詳細は省くけど「Putin Khuilo」はウクライナ語でプーチンを罵倒する言葉。右はウクライナ国旗とグルジア国旗が連帯している図だろう。

2014年に起きたクリミア危機でウクライナはロシアにクリミアを奪われた。2008年の南オセチア紛争でアブハジアに続き南オセチアもロシアに奪われたグルジアは同じ境遇を味わったウクライナに強い共感を今も持っている。

政治や歴史については思うところが少なくないけれど、まだ勉強不足なのでこれくらいに。

最後にグルジアらしいグラフィティをいくつか紹介して終わろう。

グルジアと言えばやっぱり正教会。その保守的な教義は時に異教徒やマイノリティに対して排撃があり、その点について僕は好ましく思ってないけれど、人々の素朴な信仰の表れは美しい。

左はクタイシの古い建物の壁にあったグラフィティ。十字の意匠と手形とハート。素人の気取らない描き方が落書きなのに風景に溶け込んでいた。

写真右はもはやグラフィティとは呼べないが山道を歩いているとたまに出くわす小石を並べた十字。輪郭にそって苔むしてるところから長い間時間が経ってることがわかる。自然の中にスプレーされたグラフィティは見苦しいがこういうのはいい。日本の山中で不意にお地蔵さんをみつけたような感じでなんともホッとする。

最後は自分んちのすぐ近くでみつけたグラフィティ。チョークで描かれてる。子供が描いたのかもしれない。ハート型にかたどられたグルジアの国旗とその上にმიყვარს საქართველო(ミクバルス サカルトヴェロ)と書いてある。

意味は ” I LOVE GEORGIA “

グルジア酔いどれ夜話
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