夏の清涼飲料水 第七夜

こちらの文章は2016年にnote上で連載したエッセイグルジア酔いどれ夜話の再録です。現在の私の考えと異なることや勘違いもありますが面倒臭いので記録の保存という観点から内容を変えずに再録しています。

第七夜
2016/07/12

2015年4月に呼称をグルジアからジョージアへと変更した、南コーカサスの国。日本ではあまり馴染みのないこのジョージアへ、シルクロード旅行中にたどりついたSiontakさんのコラムです。ジョージアとはいったいどんな国で、どんな生活をしているのか!?

第2、4火曜日更新
<著者:Siontak>

7月に入りトビリシも完全に夏。現在の最高気温は35度といったところ。これが8月に入ると40度を越えていく。考えるだけでやりきれない。その上グルジアにエアコン設備はまだまだ普及していない。当然僕の住む部屋にもない。

だからこそ前回書いたように夏には山地へ静養に行くわけだが、それがままならない者もいる。

今回はトビリシの夏の涼み方を紹介してみよう。

グルジア労働者の朝は遅い。11時の始業にあわせて家を出るとすでに暑さは本格化している。エアコンのあるオフィスに着く前に一服の清涼剤となるのがこれ。

夏になると駅前など人の集まるところに出現するのがクワス売りだ。クワスの歴史についてはこちらの記事に詳しいがクワスとは簡単にいえば麦芽汁やパンを発酵させてつくる飲み物。発酵をビールみたいになる前に止めるから微発泡、微アルコール、糖分が分解されずに残るので結構甘い。

写真のばあさまが量り売りする樽にはロシア語表記KBAC(クワス)とあり、その上にグルジア語でもცივი ბურახი(ツヴィ ブラヒ)とある。ツヴィが「冷たい」の意味なので「ブラヒ」がグルジア語での名前だとわかる。一杯30テトリ(15円くらい)から。最近は毎朝飲んでるが冷たくて甘いブラヒをぐいっと飲むと目が覚める。ビール酵母サプリのエビオス錠、麦芽飲料のミロなんかの仲間と考えたらなんだか身体にもよさそうだ。

一見なんなのかわからない形状と色彩のこれ、ブラヒが東欧からソ連全土に広まった飲み物だとすればこちらはグルジアを発祥としてソ連に広まった飲み物らしい。一昨年中央アジアを旅行した時もバザールや雑貨店で見かけた。

名前はლაღიძის წყალი(ラギズィス ツカリ)という。ラギズィスは発明したグルジア人の名前、ラギゼから。ツカリは水という意味なので「ラギゼ水」といったところか。

レモナテと一緒だという人もいる。レモナテとはレモネードのことでグルジアではレモン以外でもフルーツ果汁入りの炭酸水を総称してレモナテと呼ぶ。

僕の最寄り駅の近くにもラギゼ水を置く店があるので試してきた。ラギゼ水にもレモナテにもあってグルジアでは定番の香草、タラゴン味を比較してみる。逆円錐状の容器に貯められている濃縮シロップを少量コップに垂らしてから右手の蛇口から出る冷たい炭酸水で割って飲む。

写真左がラギゼ水、右がペットボトルのレモナテ、どちらもタラゴン味。レモナテのラベルに描かれてるのがタラゴンの香草。どちらもとても天然とは思えないような色に独特の香り。ラギゼ水の方がレモナテよりも乳白色がかっていて、ぼんやり発光してるようできれいだった。味も炭酸もレモナテより薄めなのでのどをうるおすにはラギゼ水の方が飲みやすい。お店の娘さんが言うには「うちのは天然の炭酸水を使ってるから市販のレモナテよりウマい」とのこと。一杯25テトリ(12円くらい)から。

ラギゼ水がグルジア発祥と聞いて調べてみたが情報は多くない。理解に役立ったのはこの記事だ(英語)。

要約すると19世紀の終わりにラギゼ氏というグルジア人薬剤師が香草や果物からエッセンスを抽出してつくる天然のシロップを考案。当時人工的に製造が可能になったばかりの炭酸水で割って飲むラギゼ水はサンペトロブルグやウィーンでも賞をとり、他国へ輸出されるほどの成功をおさめた云々。

この19世紀の終わりというのはアメリカではコカコーラが発明された頃(1886年)でコカコーラ発明経緯はラギゼ水とよく似ている。その後味付きの炭酸水を薬局が売り出し、後に軽食も出すような店へ発展したものをアメリカではソーダファウンテンと呼んで一世を風靡したそうだ。

当時ラギゼ氏の店もハチャプリやロビアニなどの軽食を出し、文学者たちのサロンになっていたと上記の記事にある。

コカ・コーラがソーダファウンテン文化の立役者だったとすればラギゼ水もグルジア式ソーダファウンテンの花形だったのかもしれない。グルジアがロシア革命による共産主義の波に飲まれなければ現在とはちがったかたちで世に出回っていたのかも?と妄想がはかどる。

ちなみに日本では1887年にラムネが登場したそう。ラムネという名前がレモネードの訛りであることを考えるとラギゼ水と遠縁にあたると言えなくもない。

ラギゼ水を調べてるうちについついネットの深みにはまってしまった。ラギゼ水を置く店の開拓はこの夏の楽しみになりそうだが、なんといっても夏の夕方、仕事を終えて飲む酒に勝る清涼飲料はないだろう。

ラギゼ水を売っているこのお店、奥ではウオッカも一杯から量り売りしている。グルジア式ソーダファウンテンは立ち飲み屋でもあるわけだ。ちなみにウオッカはグルジア語でარაყი(アラキ)。

カウンター奥左手の水槽のようなのが量り売りアラキ。

この季節、最初の一杯はビールでいきたいところだがそこはグルジア。その場で飲めるのはアラキだけだった。

ノーブランドの自家製アラキは1L5ラリでグラスだと50テトリ(25円)。おそろしく安い。

1人で飲むのを躊躇してるところへ常連らしきおやじさまが入ってきて一杯たのんだので流れにのって僕も一杯注文。2人で乾杯するとおやじさまが俺が払うと言って聞かないので二杯目を僕が出すことにする。こんな風にすぐ打ち解けられるのも立ち飲みのいいところ。二杯も飲むとすっかりほろ酔い。

「立ち飲み屋で長居は野暮」はグルジアも同じらしい。二杯目を飲み干したおやじさまは「またな!」と店を出ていった。

自分も外に出ると通りは暗くなりだしたところ。日中は暑いが湿度はそれほど高くないのでこの時間帯になるとひんやりと涼しくて気持ちいい。

ブラヒ→ラギゼ水→アラキと飲みつないでいけばトビリシの夏もなんとか乗り切れそうな気がしてきた。

グルジア酔いどれ夜話
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グルジア/ジョージアで観光ガイドをしています。お問い合わせはこちらから

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